【短編ホラー小説】

連鎖する恐怖

「ここが噂の廃屋か……」
薄暗い夜道を歩いてきた大学生3人組は、目の前に現れた木造の廃屋を見上げた。見るからに古びていて、窓は割れ、蔦が絡まる不気味な建物だ。地元では「誰も住まない呪いの家」として有名で、肝試しスポットとして恐れられていた。

「いや~、これ本当に入るのかよ。やばい雰囲気しかしないぞ」
リーダー格の隆司が笑いながらスマートフォンを取り出す。「まあまあ、こういうのは動画に撮ってSNSに上げれば一躍有名になれるって!」

3人は意を決して廃屋の中に足を踏み入れた。

廃屋の中は異様なまでに静まり返っていた。古びた家具が散乱し、カビ臭い空気が漂う。隆司がスマホのライトで周囲を照らしながら撮影を続けると、不意に背後から「ギシッ」という足音が聞こえた。

「おい、誰だよ、そんなベタなことしてんの!」
「いや、俺じゃない……」
振り返ると誰もいない。だが、次の瞬間、影のようなものが視界の端をよぎった。

「マジでやめろって……!」

緊張感が高まる中、一行は奥の部屋へ進んだ。その部屋の壁一面には奇妙な文字が掻き殴られていた。

「見た者、伝える者、全て呪われる」

突然、スマホの画面がノイズで埋め尽くされ、耳障りな音が響き渡った。同時に、全員の周りに不気味な気配が漂い始めた。

「出よう、もうやめよう!」
誰かが叫んだが、出口に向かおうとした瞬間、ドアが勢いよく閉まる音がした。

どうにか逃げ帰った3人は無事を喜びながら、その日のうちに撮影した動画をSNSに投稿した。
「ヤバすぎ! 本当に呪いの家だった!」というキャッチコピー付きで。

投稿はたちまち拡散され、再生回数は数日で数百万回に達した。コメント欄には「怖すぎる」「こんなことが本当にあるのか?」といった声があふれる一方で、「俺も行ってみる」と言い出す者まで現れた。

だが、それを見た人々に異変が起こり始めた。動画の再生中に奇妙な声が聞こえる、画面の中に不可解な影が映る、さらには夜中に黒い影が家の中をさまようという報告が相次いだ。そして投稿者である3人にも次第に異常が訪れた。

ある日、隆司が動画のコメント欄を見ていると、奇妙な投稿を見つけた。

「次は君だ」

ぞっとして振り返ったが、誰もいない。だが、画面を再び見ると、自分の背後に立つ黒い影が映っていた。その瞬間、スマホが異常な熱を帯び、手から落ちた。

翌日、隆司が失踪したことを皮切りに、仲間の2人も次々と消息を絶った。

しかし、動画は未だにネット上に残されている。誰かがそれを再生するたび、恐怖の連鎖が続いていくのだ。

廃屋の動画がネット上で爆発的に拡散し続ける中、その影響はさらに広がりを見せていた。閲覧者の中にはただのエンターテイメントとして楽しむ者もいれば、恐怖に震える者もいた。しかし、その「呪い」の本当の恐ろしさを知る者はまだいなかった。

ある高校生の場合

深夜、1人の高校生が廃屋の動画を見ていた。イヤホンから漏れる不気味な音声に「怖すぎ!」と震えながらも興奮していた。すると、動画の最後、背後に立つ黒い影が画面いっぱいに映った瞬間、イヤホンから突然耳鳴りのような音が響いた。

「……なんだよ、ビビらせやがって」

しかし、その瞬間、彼の部屋の窓がカタカタと揺れ始めた。風もないのに、窓ガラスには無数の手形が浮かび上がる。高校生は恐怖で動けなくなったまま、窓を見つめた。

やがて手形が消えると同時に、彼のスマホが勝手に点灯し、動画が再生され始める。停止ボタンを押しても反応しない。画面の中、例の廃屋が映し出されると、次の瞬間、自分の名前が壁に浮かび上がったのを目撃する。

「嘘だろ……なんで俺の名前が……?」

その夜を境に、彼は学校に来なくなった。

恐怖を探る者

ネットでは「廃屋の呪い」に関する考察や都市伝説を語る者が現れ始めた。あるYouTuberがさらに再生数を稼ごうと、動画を検証する企画を立ち上げた。

「この廃屋の真相を暴きます! 実際に現場に行って、謎を解明してみせます!」

動画は大きな注目を集め、放送当日は数十万人がリアルタイムで視聴していた。彼は現場に入り、動画の中で見た呪いの文字や部屋の状況を詳しく撮影していく。

だが、ライブ配信の途中で突然カメラが激しく揺れ、画面が真っ暗になった。かすかに彼の叫び声が聞こえた後、配信は途絶えた。コメント欄は恐怖に満ちた視聴者の声で埋め尽くされた。

「彼に何が起こったんだ?」
「これはただの演出じゃない。マジでやばい!」

その配信者もまた行方不明となり、警察が捜査に乗り出すが、廃屋には何の痕跡も残されていなかった。

最後の動画

その後も、「廃屋の呪い」はネットを通じて連鎖し続ける。最初に投稿された動画の再生数は1億を超え、廃屋に足を運ぶ者、恐怖体験を語る者、そして次々と消える者が後を絶たない。

だがある日、謎のアカウントから新たな動画が投稿された。その動画は、初めての廃屋動画を最後まで再生した者にだけ表示されるという奇妙なものだった。

動画の冒頭には、廃屋の薄暗い内部が映し出されている。そして次の瞬間、画面に現れるのは失踪した隆司や彼の仲間、さらにはこれまでの犠牲者たちの姿だった。彼らは何かに怯えた表情を浮かべ、無言でカメラを見つめている。

最後に、真っ黒な背景に赤い文字が浮かび上がった。

「逃げられない。これを見た君も、もうすぐだ。」

動画はそこで終了するが、それを見た人々は次々と姿を消していった。

今なお、ネットのどこかにその動画は存在している。再生ボタンを押してしまった者が、最後にどうなったのかを知る術はない。ただ1つ確かなのは、その呪いが終わることは決してないということだ。

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